究極のIQバスケを生み出す指導のポイントとは…?
本記事では、FIBAランキング世界第二位に男女ともに君臨し続けるバスケットボール大国「スペイン」の指導哲学について学ぶことができます。
実際に半年間にわたって、バルセロナのバスケットボールクラブにて練習を見学し、コーチとの対話などを通じて仕入れた情報ばかりです。
また、個人としても小学校から大学、社会人と20年以上バスケットボールをプレーした経験がありますので、知りたいポイントについて痒いところまで手が届く内容となっていると信じております。
是非、最後までお読み頂き、日本のバスケットボールの競技力向上、発展に役立てて頂けたらこの上ないです。
参考note
スペイン流バスケ 〜蝶のように舞い、蜂のように刺す〜
そもそもスペインではどのようなバスケットボールを目指しているのか、
そのプレースタイルの解説を詳しくしている記事です。
ご興味あればぜひご覧ください!
次世代(カテゴリ)でのプレーを見据えた指導
各選手の成長 > 目の前の勝利
スポーツをしていると「現時点で」試合に勝てれば良いという、勝利至上主義的な考えに走ってしまうケースが良く見受けられます。
確かにスポーツをしている以上、ゲームに勝利することが最大の目的となります。そうでなければ競技として成り立たず、レクリエーションとなってしまう為です。しかし、「今」勝つためにその選手の未来の成長可能性を奪ってしまってもいいのでしょうか。
年次の低いカテゴリで勝つことは、指導者の力量次第で簡単にできます。身体の出来上がっていない時期に、身体の大きな選手や高いレベルの技術を備えている選手を一人擁しているチームであればゴール下にその選手を置いておいて、ボールを投げ入れるだけで簡単に得点ができますし、それを止める術はほぼ皆無です。また、シュート精度が低いその年次の子たちを相手にゾーンディフェンスを実施することで、戦略的に勝つことは可能です。でも、その先に一体何があるのでしょうか?
- 身長が大きいから、その年代に他の選手が練習しているハンドリングを疎かにして、徹底してインサイドプレーを練習させる
- 身長が小さいから、ポストプレーのステップを教えないで、アウトサイドのプレーしか出来ない
あくまでも一例ですが、そう言った役割別の選手を指導者の独断と偏見で生み出していないでしょうか。
スペインでは育成カテゴリの間はポジションを分けず、全ての選手が同じ練習を行います。バスケットボールの基礎はどの選手にも共通しています。
- 目の前が空いていたら3Pシュートを狙える。
- 自分より小さな相手とのミスマッチならポストプレーで有利な展開に持ち込む。
- 自分より大きな選手なら外角に引きずり出してドライブを狙う。
- どんな状況でも周りをよく見て、ノーマークの選手にパスを出すことができる。
カタルーニャ選抜のヘッドコーチなどを務めている優秀な指導者に話を聞くと、殆どの人が口を揃えて次のように言います。「僕らの仕事は上のカテゴリで活躍できる選手を育成することなんだよ」と。逆説的ではありますが、次の世代で活躍できるレベルにある選手を輩出できるのであれば、そのチームは勝利に繋がるケースが多いこともまた事実です。
各カテゴリで、具体的にどのようなスキルの習得を目指しているかについては、以下の記事でご紹介しておりますので、是非ご覧ください!
参考note
スペインの各カテゴリにて重要としている指導事項
実際にU-12,U-16,U-18の3カテゴリを視察し、それぞれのカテゴリの違いをまとめました。
また、実際にどのようなポイントに注意して指導しているのか、簡潔にまとめた記事です。
徹底したファンダメンタル
前述した通り、身長やポジションに関係なく、バスケットボールをプレーする上で必要となるスキルを徹底的に習得させるような練習を行います。そのため、190センチもある選手がリバウンドからそのままフロントコートにドリブルをしてエントリーする光景が見られますし、スペーシング良くオフェンスをした結果、センターの選手が3P シュートを打つケースも見られるようになります。
大切なことは至ってシンプルで、「出来ることを増やしておく」ということです。
目の前が空いているのに外角のシュートが入らないから打てない、速攻のチャンスに気付くことが出来たのに自分自身のハンドリングではフロントコートにボールを運ぶことが出来ない、あるいは的確なパスを前に飛ばすことが出来ない…
それはバスケットボール選手としての幅を狭めている他なりません。プロの選手であれば、そう言った専門のスキルに特化していくことが求められるようになります。しかし、育成段階で、「君はこういう選手だから、シュートを打つ必要はない」とか、「邪魔をしないように動いていればいいんだ」などと言った指導をしてしまうと、見つけきれなかった才能が埋もれてしまう可能性が十分にあります。
バスケットボールをする上で、必要なスキルの基礎については徹底的に育成段階で身に付けさせる…そうしたモットーを感じることが出来るのがスペインの魅力です!
状況把握と判断に徹底的に拘る
上記で「バスケに必要なスキルの基礎」と申し上げましたが、その中でもスペインでは特に拘っているものがあります。それがこの「状況把握・判断」のスキルです。
その場の状況を正しく把握し、それに応じてより効果的な判断を下し、的確なプレーを行う。
シンプルなこの原則を正しく実践できる選手は上のカテゴリに行っても活躍していきます。
その為、例えばいくら素晴らしい1対1を行ったとしても、身体能力の差や技術だけに頼ったプレーであった場合には必ず指導者から指摘が入ります。なぜならば、「今は通用しても、周りの選手が成長したら、そのプレーのくせがバレてしまったら、世界大会に行ったら、通用しなくなってしまうから」です。
指導者が見ているのは、「マークマンの相手の状況をきちんと把握し、その逆を突き、その他の見方や相手の状況を出来る限り把握できているかどうか」に尽きます。それが出来れば、どのような状況であっても対応が出来るはずだからです。それはディフェンスは基本的にオフェンスの対応に応じて、その対応を決めていく必要があるからです。プレッシャーをかけたところで、オフェンスが想定外のアクションを行ったら、ディフェンスはその対応に回らざるを得ないからです。
その状況判断をしてから、そのプレーを正しくミスなく行う為に、前述のファンダメンタルの徹底が求められているのです。判断まで出来たのに、自分のスキル不足でそのプレーが選択できないのは、とても残念なことだからです。
参考note
スペインでバスケが上手い選手が”全員”持っている3つのスキル
実際にU-12,U-16,U-18の3カテゴリを視察し、日本での指導と比較検討しています。
育成大国スペインで上手いと呼ばれる選手に共通するスキルを、重要度の高いものから3つ取り上げている記事です。
工夫が凝らされた練習メニュー
日々変わる、目的別の練習メニュー
スペインのクラブの練習では、日々異なった意図や目的を持った練習を行っていました。何か一つ具体的なテーマを決めて、その習得に2時間の練習時間を割く、といったスタイルが一般的です。日本のバスケ(部活)では長期的なスパンで何かを身に付ける、といった考え方が一般的です。その為、日々の練習メニューは固定的で、3週間も経てば選手はそのメニューに慣れ、惰性的にメニューを「こなす」ようになります。勿論、全ての練習がそうだとはいいませんが、こなしている練習では、思考能力が低下するように思われます。
スペインでは「状況把握・判断」に拘った練習を行うのが通例ですので、状況を変えた練習を好みます。いつも一定のシチュエーションでプレーできるほど、バスケットボール、ひいてはスポーツは甘くないからです。如何なる状況でも、適切なプレーを選択できるのであれば、どのカテゴリでも、どのチームでも活躍できる選手となるに違いないからです。
飽きさせない工夫
スペイン人は集中力がとても高い反面、忍耐力は皆無と言ってもよいです。嫌なことがあるとすぐに表情に出ますし、集中力が切れてしまうとプレーの質が途端に悪くなります。
そう言った性格面も考慮し、スペインの指導者の方々は、同じ3対31つを取っても、様々なバリエーションの練習を考えます。速攻のパターンでも1人が遅れて来る場合やコートの片側に寄せるパターンなど、シチュエーションを変えることでよりゲームをイメージした練習を行います。また、その練習で勝つ条件を変えることで、常にこの練習ではどうやったら上手く「勝つ」ことが出来るのか、各選手が考えるようになります。
具体的にはディフェンスで守ってから、奪った次のポゼッションで得点を取ったら1点カウントとしたり、インサイドに一度ボールを入れてからのオフェンスでなければ得点を認めない等、その練習の意図・目的を果たすようなルールにしていました。
遊び感覚を取り入れる
前述のとおり、スペイン人は集中していない時は適当に流す性格を持ち合わせています。その為、日本人のように「真面目に」「愚直に」といった練習メニューを好まない傾向にあります。遊びながら「自然と」身に付けるように指導者は工夫を凝らしています。
悲しいですが、バスケは、スポーツは人生において必要不可欠なものではありません。自ら選んで能動的にやっているのです。そうだとしたら、せっかく上手くなりたいと思っている選手のやる気を削ぐようないやいやながらやるメニューではなく、やっていて楽しいが、実は本質的に身に付けさせたいスキルを習得できるように考えられているメニューであったほうが良いと思いませんか?
徹底した勝利思考
バスケットボールの試合に勝つために練習をしているのです。ただ、皆さんの中にも、技術を習得するような練習をしているとついつい「そのスキルを習得することが目的となってしまう」経験は無いでしょうか?
そのようなことが無いように、スペインの指導者は常に「バスケットボールを上手くプレーさせる」ことを選手たちに意識させる練習を行っています。勝利が全てじゃない。といった反論が聞こえてきそうですが、スポーツは勝ち負けがあるのです。なぜ、負けてもよいという指導をするのかは理解に苦しみます。あくまでもゲームなのですから、勝ち負けにこだわるべきなのです。
その勝つための方法や手段に問題がある場合が殆どです。勝利至上主義を批判する場合には方法や手段から確りと考える必要があると個人的には考えます。得点を競うスポーツである以上、勝敗が付き物で、必ず白黒がついてしまうスポーツの世界だからです。
だからこそ、スペインではどんな小さな練習でも、勝敗をつけ、遊び感覚(ゲーム)で行っています。あくまでもゲームであり、人生からはある種切り離して考えることが出来ているからです。日本では、全てを繋げて考えてしまう傾向にあると思います。それは勿論、日本文化の良い面でもあるのですが、悪い面でもあると考えています。
詳しくは以下の記事でご紹介していますので、是非ご覧ください!
参考note
練習メニューの作り方
〜効果的に練習するために絶対押さえておきたい8つのステップ〜
スペインで行われている練習メニューを200以上まとめ、その共通点を見出しました。
どのようなポイントに気をつけてメニューを組むべきなのか、具体的に示した”How to”記事です。
指導方法(選手とのコミュニケーション)
一方的な指導ではなく、相互的、集団的な指導
スペインの指導は、常に発問形式で行われていました。
「○○しなさい!」ではなく、「どうして○○したの?」「こっちはどうなっていたの?」と言ったニュアンスです。
前者の指導だと、指導されや選手は圧力を感じてしまい、次回以降は怒られないために指導された方法以外の選択をしないようになってしまいます。それでは、状況に応じて適切な判断を行う選手を生み出すことはできず、機械的な選手を生み出してしまうことに繋がってしまいます。
その為、練習中には時間をかけてでも、その判断の根拠となった事象や、それ以外の選択肢を持っていたのかいないのか等、選手に応じて質問や指導を変えていきます。
また、指導者は独りで指導に当たるのではなく、その他のコーチ陣と常に話し合いながら練習を進めていきます。コーチ其々に考え方がある為、判断基準も其々だからです。個別具体的な指導が出来るように体制を整えていました。
メリハリのついた練習
スペインの練習は長くても2時間で終わります。少人数且つ切り替えの早さや、練習の強度が比べ物にならないくらい高い為です。また、休むことも練習という考え方が確りと浸透しています。怪我をしながらも無理に練習すると言った光景は無く、指導者は常に選手の状態に気を配っています。
加えて、バスケに直結しないような、ただ走るだけのランニングや思考を必要としない練習に時間を割かないようにしていたのが印象的でした。チームで練習するのだから、チームでしか出来ないことを練習しようという意図が、見ている側に伝わってくるような練習です。その為、1日のうちに身に付けたい技術の習得に、つまり目的に必要なことだけに絞るため、2時間という短時間で集中した練習を行うことが出来るのです。
国や州を挙げた底上げ施策
以前の記事でご紹介しましたが、アンダーカテゴリに対して、スペインとして次世代の才能を発掘、育成する「システム」が確立していることが最大の特徴です。カリスマ性のある特定の指導者による感覚的な指導でもなく、いきなり現れた才能の塊のようなダイヤの原石を徹底的に磨き上げるような指導でもありません。
今後、何十年間もスペインがバスケットボールにおいて強豪国であるようにと、教育システムを確立させているところに最大の強みがあります。
参考note
スペインに学ぶ体系的バスケ指導方法 〜エリート発掘・養成プログラム〜「PDP」
スペインで行われているアンダーカテゴリの育成・強化を目的とした練習会、それがPDP。
どのような指導が行われているのか、秘密を紐解いていく記事です。
参考note
日常が世界基準。「SEGLEXXI」というエリート養成システム
スペイン女子バスケ代表の強化を目的として設立された育成組織、セグレ21。
どのような育成の仕組みが存在し、どのような指導が行われているのか、秘密を一つずつ紐解いていく記事です。
まとめ
如何でしたでしょうか…?
スペインの選手達はヨーロッパの中では決して体格に恵まれている訳ではありません。しかし、欧州選手権では常に上位に位置し、世界選手権等でもベスト4に常に入ってくるほどの実力を備えています。
日本はアジアの国の中でも体格に恵まれてはいません。世界に視野を拡げれば尚更です。それでも勝たなければならないのです。
そこまで視野を拡げなかったとしても、日本の中でも強豪校とその他の学校の間には明確な体格差が存在します。技術の差も存在します。それでも、競技をする以上、戦う以上、勝ちたいのであれば何とかしなければならないのです。
その為の一助となれば幸いです。スペインの方法が全てだとは勿論考えていません。それでも、バスケットボールをプレーする上で、重要なスキルを確り教えていくという考え方だけは、世界各国共通であるべきだと考えます。
少しでも”バスケットボール”が上手くなるように、選手だけでなく、関係者もレベルアップしていきましょう!