2018 女子W杯 スペインVS日本
本記事では、2018年の秋にスペインにて実施された女子バスケワールドカップの「スペインvs日本」の解説を行っています。
スペインのバスケットスタイルを学んできましたので、どういった試合のどの場面でそう言ったプレーが出ているかを見ることが出来ます。
そして、そのような強豪国に日本はどうしたら勝てるのか、そういった点まで考察しております。
それでは早速見ていきましょう!
試合動画
ポジション別身長一覧(身長とプレースタイルからポジションを推測してます)
スペイン
PG 165 172 173
SG 178 180
SF 180 187
PF 190 190 191 198
C 190
スタートの選手
4 7 9 10 45
日本
PG 162 164 170
SG 171 175 176 184
SF 180 181
PF 182 182 183
C ×
スタートの選手
7 8 15 30 52
試合レビュー
日本は191センチのC渡嘉敷選手が不在であるが、対するスペインは190オーバーの選手がが5枚いる布陣です。この圧倒的体格差から、フロントコート陣(SF~C)は全てミスマッチが起きてしまっています。
1P
日本のオフェンスのスタイルは5アウト気味でインサイドにスペースをかなり広く取って攻めています。また、ディフェンスで取ったボールは素早く前へプッシュして、速くフロントコートに入り、攻め切れるのであればアーリーオフェンスで得点を狙おうと考えていると考えられます。
インサイドのスペースを広く開けることのメリットとしては、
- スピードを生かしたドライブがしやすい
- ディフェンスの大きな選手をヘルプに行かせない
ことが出来ますが、反面デメリットとしては、
- 外角からの1対1が勝てないとオフェンスが後手に回りやすい
- パスをしてもアウトサイド(3Pライン上)を回るだけとなってしまい、ディフェンスのズレを生み出しづらい
などが挙げられます。
対するスペインのオフェンスですが、4アウトを基本としたスペーシングバスケットを仕掛けています。身長のミスマッチを活かしたペイントエリア内でのゴリ押しバスケットでなく、あくまでも自分たち本来のバスケットである、スペーシングを徹底してプレーしてきています。
開始5分で日本はターンオーバー(TO)を4つしてしまいます。スペインも同じ4つなのですが、日本はガード陣の、それも高い位置でのnミスが目立つため、ミスの印象が強く残っています。
日本は先ほど紹介した通り、5アウトからSFやPFの選手がドライブを仕掛けることが多いです。ガード陣も積極的に切れ込んでいくのですが、体格差があり効果的ではないようです。
その後、スペイン10番の選手のミドルシュートが連続で決まってしまい、日本はタイムアウトを取ります。ここでのタイムアウトの理由は「ディフェンスの受け渡しが上手くいっておらずノーマークでのジャンパーとなっている為」と考えられます。単なる1対1でやられている訳でなく、組織的なディフェンスが機能していないからタイムアウトを取ったのでしょう。
タイムアウト後、スペインはTOPでボールを持っている選手に対してインサイドプレーヤーがピックをセットする形を中心にプレーするように変えてきます。ズレを作るオフェンスをして来ようという思惑です。体格差がある選手が更に数的有利(アウトナンバー)まで作ってきます。これが面白いようにハマってしまい、次々と日本のディフェンスは後手に回ってしまい、ズレが生まれ、効果的なオフェンスを成功させています。
日本はガード陣がドライブを果敢に仕掛けるも、スペインの1対1のディフェンスはとても粘り強く、一人では効果的なズレは生み出せていません。そして、プレッシャーをかけられ、TOが目立ちます。最後は連続TOをしてしまい、そのボールをスペインは確実に得点に繋げ10-20で1Pが終了します。
2P
まずは以下の1プレーを見てください。
これぞスペインバスケの真骨頂と思わず唸るプレーです。
美しいスペーシングからピックロールでズレを作り、出てくるヘルプからボールを守りながらステップイン自分でもシュートに行けたが、ノーマークとなっているコーナーへ迷わずパスを選択。日本の15本橋選手はコーナー側に降りてもよかったが、そうすると45°の選手がノーマークになってしまうことから動けず。どちらにせよシュートを打ててしまう数的有利のシチュエーションをチーム一連の動作で創り出したプレーです。考えずにできていると思うくらいスムーズで無駄な動きの無いプレーです。状況把握・判断がコート上全ての選手に共通していることが分かります。
しかし、日本も負けてはいません。日本には日本の良さがあるからです。以下のプレーをご覧ください。
この縦に素早く出した速攻は見事です。実況のお姉さんも「so incredibly fast!!!(マジで速い!)」と唸るほど、日本の特徴を印象づけるプレーです。この速攻を多く出したい、速く攻め切ってしまいたいということが日本の狙いであるはずです。
ここまでの時点でTO数は「日本が7個に対してスペインが8個」と日本もディフェンスを成功させています。スペインのオフェンスリズムは悪くなっているのですが、日本はそのチャンスを生かせずに終わってしまいます。
そこでスペインは、もう一度ハーフコートオフェンスを立て直すことを意識して組み立ててきます。得点が止まっている時はフリースローでつなぎ、その次のトランジションでセットプレーを選択。フリーのミドルシュートを創り出し、息を吹き返します。対する日本はここで痛恨のTOを犯します。
日本は状況を変える為に、一瞬だけ3-2ゾーンにシフトしますが、スペインの選手人の順応は早く、即3Pシュートを沈められてしまいます。また、その次の攻撃でもスペーシングを確りと行っており、3-2ゾーンの弱点の一つであるコーナーがガラ空きとなり、確実にそこを突いてきていることがわかります。
5アウトで攻めている日本はガード陣がボールを保持する時間が長くなります。状況を打開すべくドライブを試みるのですが、45°からのレイアップは難しいようです。バックシュートを用いて身体を上手くディフェンスとの間に入れないと得点をすることは厳しく、ブロックされてしまうシーンがいくつか見られます。
ただ、SF・PFのゴールへのアタックが効果的でした。しかしそれもスピンを加えるなどの一工夫が必要です。簡単に決めているように見えますが、スロー再生で見てみると体格の大きなスペイン選手のコンタクトを受けながらも難しいタフショットを沈めているのです。日本選手の高度な技術を垣間見ることができます。
前半終了時点で21-39でスペインがリードしています。(2Pは11-19とスペインがリード)
前半スタッツ分析
ここまでのスタッツを分析してみると、日本はフリースローが0本となっています。これはゴールに対して強くアタックが出来ていないことを意味します。
また、3Pの確率が悪いが、これは本来打つべき選手ではなく、SFやPFの選手が打っているためと考えられます。インサイドで攻められないから、結果外角のシュートを選択している、という状況だと分析できます。
加えて、アシストも日本が2個に対し、スペインは9個と大きな差があります。誰か一人がファンタジスタのようなパスを出している訳ではなく、チームとして良くパスが回っていて、ボールミートからノードリブルで得点が取っていることを意味しています。
最後に、オフェンスリバウンドも日本が3個に対してスペインは7個取っています。私が見ていたSEGLE21というスペインの代表を多く輩出するクラブチームの練習では、この点に関して、とても練習中からも強調されていました。「ファストブレイクを出させないためには、まずオフェンスリバウンドにいきなさい」ということが徹底されているからです。その指導はスペイン代表でも一貫して行われていると考えられます。
日本が仕掛けたいオフェンスの順序としてはまず縦にボールをプッシュし速い展開に持ち込むことです。そしてそれが出来なければ、ガードが素早くフロントコートにボールを運び、45°へドリブルダウンをします。5アウトの形でフリーオフェンスをしている為、ペイントエリアに大きなスペースが存在します。そこに45°やコーナーの選手はバックカットを狙っていきます。
それでもだめなら、ドリブラーにスクリーンを2枚かけ、ミドルドライブを仕掛けていきます。またはTOPか逆サイドの45°に展開し、SFかPFの1対1でオフェンスを組み立てていると考えられます。
3P
日本は3-2の変形ゾーン、スペインはマンツーでスタートします。
日本は2Pの途中でゾーンを採用した際に簡単に崩されてしまったことを受け、上の3人がかなり広範囲に広がって守っているのが特徴的です。特にコーナーを警戒しているように見えます。
中盤残り6分から両チームのディフェンスが緩み、12点差を一進一退の得点を取りあう時間帯となります。守り合いのゲームから点の取り合いおゲームに状況が変わります。スペインはインサイド、日本は速攻と外角とお互いの良さが見えます。
日本は24藤高選手がこのピリオド2本目となる3Pを24秒ギリギリで沈めて11点差とします。流れが傾きかけたところですかさずスペインはタイムアウトをとります。
スペイン選手のこの技術がすごい!
女子選手でもこのようなトリッキーなプレーを仕掛けてきます。
間に合わないと判断、大げさなアクションを取り、ファールを誘います。
タイムアウト後、スペインは一気に7連続得点に成功し、再度18点差へと差を拡げます。
日本は粘り強くFTとゴール下での加点に何とか成功し、ゲームを繋ぎます。
48-61とスペインがリードして最終ピリオドへ突入します。(3P 27-22と日本がリード)
日本はこのピリオドだけで3Pを3本成功、FT6本を獲得・成功するも、スペインのFG%も高く守り切れなかった為、点差を詰め切れなかったとみられます。
このピリオドは両チーム点数を取り合う展開となりました。そして、この試合で唯一日本がリードして終えたピリオドです。(それ以外の1,2,4Pはスペインが勝っています。)点を取りあう速いゲーム展開であれば日本の方が有利に試合を進められると考えられます。
スペインのオフェンスに関してまとめると、このピリオド前半の時間帯はインサイドの得点から、後半はアウトサイドのシュートと確りとディフェンスの状況を判断し効果的に攻められるポイントで攻めてきています。つまり、日本のディフェンスが後手に回ってしまっていると言えます。
4P
10番がTOをした後、すぐに24番にハンドチェックを自然と行い、速攻を止めようとしていることがわかります。すぐに手を挙げているから故意的にしていると読み取れます。
ファールの使い方については是非、以下の記事をご参照ください!
【バスケのルール 初心者向け】 ファールの種類 わかりづらいファールについてはこれで完璧!
日本はインサイドを固めるべく2-3ゾーンを用いるもここがスペインバスケの真骨頂…
いとも簡単に2つのパスで崩しています。
スペースを広く取り、典型的なハイローの合わせ。美しいですね。
ハイポストにボールが入ってしまったので、日本のディフェンスはさっきやられたプレーを2度されない為に52宮澤選手はローに張り付きます。しかし、スペインの選手にとってそれは予測済。即座に45°にいる選手がオープンであることを理解しており、パスを選択し、3Pを沈めます。これはゾーンディフェンスをする意味が無くなります。
その為、この攻撃後、即座に日本はタイムアウトを取っています。
また、ここまでで2ndチャンスポイント、言い換えるとオフェンスリバウンド後のオフェンスでの得点が日本が2点に対してスペインはなんと13点。もちろん身長差は仕方ない部分がありますが、オフェンスリバウンドへの意識が違うという点もお伝えしたい点です。
日本はなかなか点差を詰めることが出来ないので、残り5分を切った辺りからフルコートのプレスを仕掛けますが、スペインの選手は落ち着いてノーマークの選手にボールをパスしていきます。点差が9点か11点か、その1桁か2桁かを行き来する攻防がこのピリオドの最大の見どころです。結局は守り切ったスペインがゲームを取った形でタイムアップとなりました。
70-84でスペインの勝利。(4P 22-23とスペインがリード)
スタッツ分析
- FG%は日本51%、スペイン52%と互角。
- 3FG%は日本33%、スペイン42%とスペインが優勢。
- FTに関しては、前半0本だった日本が後半だけで15本とスペインの12本を上回っており、後半はオフェンスが上手く機能したと考えて良いでしょう。
- 顕著な差が出たのはリバウンド(日本24-スペイン40)とアシスト(日本10-スペイン22)の部門です。特にオフェンスリバウンドが(4-14)と10本もの差があり、これがセカンドチャンスポイントの得点差(2-13)に直結しています。
- また、アシストの多さはドリブルからではなく、パスからの得点が多いことを意味しています。如何にノーマークの状況をチームで創り出せているかということが読み取れます。
- ただ、速攻での点数は日本10点に対し、スペイン2点と日本が優勢でした。オフェンスリバウンドからの失点が多い分、このファストブレイクからの得点で上回ることが出来た為、10点差での攻防ができたゲームだったと言えます。
- ターンオーバーは各チーム19個ずつではありますが、日本はガード陣の高い位置でのターンオーバーが多かった為、スペインディフェンスのプレッシャーがかなり効いていると感じるゲームとなっていました。
身長の小さいチームが大きな選手に勝つためには
- ボックスアウトの徹底
- ブロックをさせない身体の使い方
- 速く攻め切る
ボックスアウトの徹底
日本はBIGマンがボックスアウトをしっかりと行い、ガード陣がリバウンドを拾いに行きます。だから吉田亜沙美選手は1試合で16リバウンドを取ることが出来ていたのでしょう。これは身長の小さいチームであれば守るべき鉄則です。ガードは下まで降りていく、運動量を増やす必要があります。そうして取ったボールを自身でプッシュして速攻に繋げることが出来れば文句なしです!
ブロックをさせない身体の使い方
せっかくのオープンスペースでドライブを仕掛けても、世界レベルの選手はゴール下まで執拗なコンタクトを仕掛けてきます。この試合でも日本のガード陣が何度もゴール下へと果敢にアタックを仕掛けますが、粘り強いチェイスと最後までシュートチェックしてくるディフェンスによりブロックされたりターンオーバーを誘発されたりしています。
99オコエ選手がドライブ中にスピンターンをし、体格の大きな選手を上手くかわしてから、最後にチェックを腕で確りと抑えてシュートに持っていく細かな技術があります。
また、試合終盤では日本15本橋選手がレイアップの際にボールを叩かれないように、自分の身体を相手とボールの間に入れるように上手く使い、レイバックシュートに持って行っているシーンがいくつか見られます。そういったシーンをもっと多くし、フリースローを貰えるようにゴールにアタックしなくてはならないでしょう。
速く攻め切る
ハーフコートオフェンスとなってしまうと、苦しい1対1を仕掛けたり、大きな選手からにプレッシャーをかいくぐる為にエネルギーを費やさなければなりません。その為、出来れば時間をかけず、アウトナンバーを作れる速攻で攻撃のリズムを作っていきたいと考えているでしょう。
しかし、そこでスペインの対策は「オフェンスリバウンド」なのです。速攻を出す為にはリバウンド後の1番初めのパスを早くガードにつなぐ必要があります。そうしないとディフェンスの選手はまずバックコートに戻る(ハリーバックする)ためです。しかし、オフェンスリバウンドに参加すると、まずリバウンド争いでボールがもつれます。そしてその選手に簡単にパスを出させないように確りとプレッシャーを与えます。そうやって、味方の戻る時間を創り出す効果も含んでいるのです。
だからこそ、ガードが下まで降りて、即座にボールを受けるもしくは自分で取ってプッシュする必要があります。もしくはフォワードの選手が自らボールをプッシュすることが出来ればもっと良いです。
まとめ
以前記事として取り上げた「スペインバスケのスタイル」を少しでも理解して頂けましたでしょうか?サイズの小さい日本に対してもスペインのスペーシングバスケットというスタイルを貫き、日本の速い攻撃を摘み取るプレッシャーディフェンスの質の高さ…。
女子FIBAランキングは当時の時点でスペイン2位と日本13位と近そうで遠い、その実力差が垣間見えた試合でした。
スペインバスケットから取り入れられる要素はまだまだ沢山あると思います。
是非何かの気づきとなれば嬉しいです!