本記事では、スペインのバスケの育成現場の特徴についてお話ししたいと思います。実際に現場で見て、聞いて、感じて、考えてきたことです。スペインバスケの育成のリアルがここにあります!是非、皆様の何か気付きとなれば嬉しいです。
1.U-16カテゴリとは
1-1.カテゴリの紹介
日本では中学生から高校生の橋渡しに位置する階級で、スペインにおいては本格的に組織的なバスケットボールの動き方に必要な基礎を習得し始める時期に当たります。
その為、この年代は次のJunior(U-18)に向けての下準備の段階としての役割を果たしています。今までに身に着けている個人スキルを組織的な動きの中でどのように活かすかということやバスケットボールをプレーするということはどういうことなのかを徹底して習得していきます。
試合における戦術はこの年代から一気に増えます。具体的にはPick&Rollやゾーンディフェンスがこのカテゴリから解禁される為、よりバスケらしい試合となってきます。また、この時期から徐々に選手の身体も大きくなり始め、コートにおける役割(ポジション)が明確になってきます。この年代以降のカテゴリ間、つまりCadet(U-16)とJunior(U-18)やJunior(U-18)とSenior(プロ)の間でのバスケットボールのプレー習熟度の差も大きくなっていきます。
個人的な見解としては、この年代までに限れば日本人の選手も引けをとっていないと感じます。ただ、次のカテゴリであるJunior(U-18)になると差は歴然となり、特に男子に関しては埋めようの無い差に拡がります。勿論欧州の選手との体格差がある点は否めませんが、世界的に見て、スペイン人の選手もそこまで体格に恵まれた選手たちばかりという訳ではありません。しかし、バスケのゲームには勝つことが出来ているのです。つまり、特にこの年代での育成が大きな差を生み出していると考えるのは自然ではないでしょうか?
この年代をスペインでは「Cadet」と呼びます。
1-2.育成目標
このカテゴリではどのような選手を育成することを目標としているのでしょうか。
以下の3点に分けて、簡潔にそれぞれ見ていきましょう!
(参考)カタルーニャ男子U-16における選抜基準
以下の心技体が揃った選手。
※勿論以下3つを全て満たすことが望ましいが、2つでも満たせていれば高いレベルでのバスケットボールがプレーできる。
心:ボールシェアリングができ、チームプレーに献身的な選手
技:コートバランスを上手く取れ、パッシング技術に長けている選手
体:得点を取る為のサイズを兼ね備えた選手
①心(戦術・メンタル)
戦術面に関しては、ゾーンディフェンスやそれに対するゾーンオフェンスや組織的なプレスディフェンスの考え方を学ぶこと。
精神面に関しては、組織としてプレーをする為、チームの勝利にどのように貢献するかといった献身的である姿勢が求められると同時に、一選手として、積極的にゴールにアタックするプレーや一生懸命にプレーすること、また、何よりも勝利を追求する負けず嫌いなメンタルを育むこと。
②技(スキル・アビリティ)
正確な状況把握・判断の基礎を習得し、合理的な判断が選択できるようにすること。
スペーシング・ポジショニングの考え方を理解し、適切に行うことができること。
※これはU-18(Junior)のカテゴリ以降に本格的な組織的なプレーを習得するうえで必要になってきます。
個人だけではなく、味方が関与する場合の個人スキル(例としてボールマンピックやオフボール時のスクリーンの使い方、ディフェンス時のヘッジのやり方など)を習得すること。
③体(フィジカル・コーディネーション)
コンタクトに対して抵抗をなくし、最後まで力強く攻める、守れる身体をつくること。
バスケットをプレーするうえで必要な体力(コンタクトに対する耐久力や持久力、各動作に必要な部位の筋肉の質の向上)を身に着けていくこと。
2.練習内容
2-1.主な練習内容
Pick&Rollやゾーンディフェンスなど、バスケットボールにおける戦術的要素はこのカテゴリから解禁されます。ディフェンスのポジショニングもこのカテゴリから厳しく指導されます。オフェンスに関して言えば、スペーシングの指導を本格的に行います。特に動きのタイミングや判断基準を徹底して教えられるように、オフザボールの動きを絡める3ON3や4ON4を中心に行います。その為、練習中に5ON5を行うケースは多くなく、ハーフコートでの2ON2や3ON3を用いた基礎の徹底を中心に確認する練習が多いことが特徴です。基本的には3ON3を用いて様々なシチュエーションでの確認を行います。逆サイドを絡めた練習が必要な場合に4ON4を行いますが、その意図としては、5ON5と比較してスペースを広く取ることが可能で、正しい判断が容易になる為です。
精神面に関しては、常にアグレッシブで勝ちに拘るように、競争心を煽る「勝敗のある練習メニュー」を用意し、徹底して勝ち負けを意識させます。負けたチームにはペナルティを与えるよう、些細な練習でも、常に白黒つけることを心がけています。
技術面に関しては、この時期から1ON1に加えて、2ON2や3ON3などを取り入れた練習でバスケットの基礎的な動き、とくにハーフコートバスケットの考え方を学ぶため、個人完結スキル(シュート・ドリブル・パス)に加えて、味方が関与した場合のプレーの方法を学ぶ必要があります。1ON1においては、マッチアップの相手とその後のヘルプの状況だけを見て考えれば良かったのですが、複数人が関与するケースになると、その他の状況も把握し考慮した上での判断が求められるためです。その為、様々なバリエーションを持たせた練習を行い、都度、判断の根拠を確認し、その上で判断の正確性や速度の向上を図る為の練習が中心となります。
体力面に関しては、激しいコンタクトから身を守るための増量トレーニングではなく、必要な筋肉を鍛えていく質的トレーニングが重視される傾向にあります。また、神経系のコーディネーショントレーニングをゲーム感覚で取り入れつつ、サーキット形式で自重やチューブを用いて軽負荷で身体の使い方を意識したトレーニングを重点的に行います。
2-2.指導方法の特徴
このカテゴリの段階では、まず言葉で一つひとつ丁寧に説明をします(聴覚・論理的)が、聞いたことを脳内で鮮明にイメージできる選手は少ないです。その為、指導者は必要であれば、動き方を実際に実演し(視覚)、言葉での説明と実際の動きをリンクさせるような指導を行います。また、理解度が一定レベルにある選手には、その他の選手に対してその練習の意図や目的を自分自身の言葉によって説明させる機会を設けることもあります。
特に、何故そのプレーをするのか、その他の選択肢は無かったのか、など、プレーの一つ一つを丁寧に切り取り、確認することで、似たようなシチュエーションに遭遇した際に、根拠のある判断を素早くできるようにトレーニングしていきます。
3.まとめ
如何でしたでしょうか?
本記事では、スペインのバスケットボール指導が如何に体系的、論理的に行われているかということを知って頂けたと思います。また、その育成哲学は、ヨーロッパの中でも一歩先んじているのは確かです。強豪ひしめくヨーロッパの大会で常に上位に名を連ねる結果が何よりの証拠です。
「目の前の勝利より、1カテゴリ上で活躍することを見据えた指導を行う」ことはとてもシンプルですが難しい問題です。
指導者も勿論、プレイヤーも常に一つ上のカテゴリでのプレーをイメージした練習を心がけると、とても良いと思います。その為には「今の時期に何を身に着けて、何が出来ていないのか」ということを自分自身が正確に把握する必要があります。それを助けてくれるのが指導者の方々の役割です。どちらか一方が欠けても、爆発的な上達は見込めません。