SEGLE21 スペイン名門女子バスケクラブの練習メニュー 1日分 U-16
本記事では私が実際に見てきたスペインの女子バスケットボールクラブの練習メニューの1日分を切り取ってご紹介したいと思います。
以前の記事でもご紹介した通り、日々練習メニューが異なります。そして、1日の中で段階を踏みながら、一つのテーマを習得させるように合理的に練習が行われています。
今回は実際の練習がどのように行われているのか、具体的にどんな練習メニューをしているのか、その注意点はどこにあるのかなど、私が日本で受けてきた指導との比較も取り入れながら解説していきます。良い点があれば、是非とも皆さんのチームにも取り入れて頂ければ嬉しいです!
2018年10月2日のU-16(Cadet)の練習
人数は11人と少数。しっかりとしたアップなどは無く、一定人数が集まったら練習がスタートします。
日本で良く見られる円陣などは練習開始前にはなく、コーチの一声から選手たちは一気に集中した状態にメンタルを持っていくことができます。
練習時間は2時間、カテゴリはU -16(Cadet)レベルですが、練習内容としては日本の高校レベルに相当します。
スペインの練習はさぞかし複雑で、大変で、覚えることも色々あって難しいんだろうな…そう思っていませんか?私もそう思っていました。しかし実際は全く違ったのです。勿論、細かな制限をかけたりする練習もあります。ただ殆どはそうではありません。
以下に挙げているのが、本日の練習で身に付けてほしいポイントです。
1日の狙い
オフェンス
- ディフェンスの状況とオフェンスの状況を正確に把握すること
- 縦に鋭いドライブを仕掛けること
ディフェンス
- ボールマンにプレッシャーを与えること
- 縦への直線的なドライブをさせないこと(ペイントエリアに侵入させないこと)
- ディフェンスのポジショニングを適切に素早く行うこと
さぁ、たったこれだけのポイントです。しかも極めてシンプルな物ばかりです。
2時間かけて上記のポイントだけを徹底して身に付けさせる練習は一体どのように組まれているのでしょうか…?
さて、前置きが長くなっても仕方ないので、早速見ていきましょう!
練習メニュー
①ドリブル鬼ごっこ コーディネーション
練習の目的
逃げながら鬼(ディフェンス)と仲間(オフェンス)のボールの位置を常に把握できるようになるため
味方が自分の捕まりそうな状況に気付いていない時に、自ら声を出してボールを呼ぶことができるようになるため
必要な道具
- バスケットボール3つ
- 色違いのバスケットボール1つ(もしくはテニスボールやハンドボールも可)
練習内容の説明
ハーフコートで行います。制限時間は2分間。
- Part1
鬼を3人決め、ボールを1つ持たせます。鬼はドリブルをして、ボールを持っていない他の人を捕まえます。鬼は捕まえたらその人にボールを渡して、今度は逃げる立場になります。最後にボールを持っていたら罰ゲームを課します。
- Part2 応用
鬼以外にボールを一つ用意します(できたら色違いのバスケットボールなどが良いです、なければテニスボールなどでも良いでしょう)。逃げている人はそのボールを他の仲間からパスしてもらうことが出来ます。鬼に追われている時にその特別なボールを持っている人はタッチをされません。ただし、終了時点で最後にその特別なボールを持っていた人もまた罰ゲームとなります。
ココがPOINT!
Part1では鬼(ディフェンス)の状況だけを把握し、自分の逃げるコースを探せばよかったのですが、Part2では味方の位置関係も把握する必要性が生じます。バスケットボールにおいては、常にボールの位置、ディフェンスの位置、オフェンスの位置の3つを正確に把握する必要があります。このコーディネーションではそれを遊び感覚で養うことができます。
②ディフェンススライドステップとクロスステップの確認
練習の目的
ステップを踏んだ後に、常に正しいディフェンスのスタンスが取れるように習慣づけるため。
必要な道具
- 特になし
練習内容の説明
その場でディフェンススタンスを取ります。最低でも足幅は肩幅強で、パワーポジションスタンスを取ります。
右方向に行きたいのであれば、右の脚から先に動かし、逆足で床を蹴るようにスライドステップを踏みます。
ステップ後の足幅が当初取ったスタンスと同じ幅になっているようにします。
それを各方向2回行ったら、クロスステップも同様に各方向2回ずつ行います。
ココがPOINT!
自分の動きを妨げない範囲で可能な限り足幅は拡げた方が、オフェンスに直線的なドライブをされにくくなるので覚えておきましょう。また、ステップ前に比べて、ステップ後の足幅が狭くなったり広くなったりしないように強調します。また、ステップ中に重心が上下動はしないよう一定に保つことも徹底させます。
③チェックハンドと間合いの確認(1ON1のディフェンス)
練習の目的
ドリブルをしていない状態のボールマンに対してのプレッシャーの掛け方の確認
必要な道具
- ボール1つ(2人組)
練習内容の説明
2人1組でボールを1つ持ちます。
まずオフェンスはその場で右手側、頭上、左手側とボールを動かします。ディフェンスは確りとボールを手で追いかけながらスタンスを微調整する。(※あくまでも重心は相手の身体の中心部分。ボールではない)。
次にオフェンスはピボットを踏みながら右手側、頭上、左手側とボールを動かします。ディフェンスはオフェンスの身体の中心がピボットにより移動するので、より大きくスタンスを調整する必要があります。
ココがPOINT!
ピボットをオフェンスがしている際、特に頭上にボールが移動した時のディフェンスの体重移動が肝。
-
- ドリブル有:スナップハンドで下からオフェンスを覗き込むように間合いを詰める
- ドリブル無:トレースハンドで両手を使ってスティックを狙い、一気に間合いを詰める
その場でのボール移動とピボット有のボール移動の計2周が終ったら、1ON1を行います。
ドリブルは3回まで。抜けなかったらその場でストップし、ディフェンスは間合いを詰めるところまで行う。
ディフェンスは以下の図にあるように、其々のコーンを目標として内側を守ります。
TOPからであればエルボーの左右50センチ以上外側に膨らませるように頑張ります。
45°からであればローポストに置かれたコーンよりもエンドライン際にオフェンスを寄せるように頑張ります(ノーミドル徹底なのでミドル方向には抜かれない前提です)。
ココがPOINT!
- ミドルサイドはエルボーの約50センチ外側を抜かせる
- ウィークサイドはショートコーナーエリアが限度(それよりハイポスト側でペイントに侵入させてはならない)
④オールコート片面2ON2
練習の目的
ボールマン(1線)のディフェンスとヘルプ(3線)のディフェンスの切替えを速く正確に行うため。
必要な道具
ボール1つ(4人組)
練習内容の説明
オールコートの縦半分を使って行います。
上の図にあるように、ボールマンはノーミドルの徹底をして守ります。そしてもう一人のディフェンスはディナイではなくヘルプが出来るようなポジション取りをします(ヘッジとも言えますが、抜かれた際にはスイッチするのでここではヘルプとしています)
味方のディフェンスが完全に抜かれきってしまう前にヘルプのディフェンスはドリブルのコースを塞ぎます。シュートを決めるかディフェンスがリバウンドを取ったら交代です。
ココがPOINT!
- ボールの位置を常に正しく把握して、ボールが自分のマークマンから離れたら、素早く適切なポジションに移動することができること。
- 抜かれたら粘り強くクロスステップを使ってチェイスをすること。
- ヘルプからボールマンのディフェンスになった場合は特にミドル側をストレートに抜かれないこと。
⑤ハーフコート縦半分2ON1 (その後2ON2)
練習の目的
ボールマンのディフェンスとヘッジのディフェンスの切替えを速く正確に行うため。
必要な道具
ボール1つ
練習内容の説明
(2ON1)
まずウィングとコーナーの位置にオフェンスが立ち、ディフェンスはコーナーにのみ付けます。ウィングのオフェンスがボールを持ってスタートします。
ウィングからのドライブを仕掛け、それに合わせてコーナーのオフェンスは45°側にポジションを上げるように動きます。
ウィングのオフェンスはコーナーのディフェンスを引き付けてキックアウトで合わせてきた味方にパスをします。シュートもしくはドライブを仕掛けてスコアしましょう。
その時コーナーのディフェンスはヘッジし過ぎないようにしましょう!
(2ON2)
今度はディフェンスを2枚に増やします。同様にウィングからドライブを仕掛けますが、コーナーのディフェンスはヘッジをして、ドライブのスピードを緩めるようにしましょう。
先ほどの2ON1との決定的な違いは、コーナーのオフェンスが自分のディフェンスの状況がどうなっているのかを見る必要があります。
完全にドライブに目を奪われているのであれば、裏を狙ったバックカットも有効です。
あるいはヘッジに行き過ぎていると判断したらコーナーでステイして、キャッチ&シュートを狙いましょう。
それ以外の場合ではドライブを仕掛けたウィングが空いているはずですので、そこに移動し、ボールを貰ったらミドルドライブを仕掛けましょう。コーナー側から上がって来たディフェンスがノーミドルを守るのは難しい為、直線的にドライブしましょう!
ココがPOINT!
- ディフェンス
ヘッジに出過ぎて、自分のマークマンがボールを保持した際の対応が遅れないようにしましょう。また、直線的にドライブをされては元も子もありません。ハードにコンタクトしましょう。
- オフェンス
ゴールに対して直線的にアグレッシブにドライブをすることが大切です。一瞬のズレを逃さないようにしましょう!
⑥ハーフコート縦半分3ON3
練習の目的
ヘルプディフェンスが存在する場合の状況判断を追加するため。
※5で実施した2on2よりも、実践に近づけた練習内容とする為。
必要な道具
ボール1つ
練習内容の説明
先ほどの2ON2にローポストに一人ずつ加えることで、ヘルプディフェンスが存在するようにしてより実戦をイメージできるようにしています。
ココがPOINT!
- ディフェンス
ヘルプディフェンスが存在する為、よりハードにプレッシャーを仕掛けることが出来ます。ペイントエリアに直線的に入れさせないこと、ボールが止まった際には間合いを詰めていくことなど、今日の練習の前半部でやったあらゆる基礎を総確認していきましょう。
- オフェンス
ヘッジディフェンスの状況だけでなく、後ろのヘルプディフェンスとそのオフェンスの状況まで把握してドライブをする必要があります。むやみやたらにドライブをするとスペースを潰しかねません。指導者の方は、スペースを上手く使えているかを確認するようにしましょう。
まとめ
如何でしたでしょうか?
個々の練習が最後に「ぎゅっ」と統合されるように組まれていることをお分かりいただけましたでしょうか…?
このように日々の練習にテーマを持って、集中して身に付けていく、という練習方法がスペインのクラブチームの特徴ともいえます。翌日は全く異なるテーマ、例えばピック&ロールやゾーンオフェンスの為のスペーシングなどがありますが、そういったテーマを扱うこともあります。
惰性で練習していれば身に着いた…というようなものではありません。毎日新たなメニューに取り組むため、その場その場で確りと理解することが求められており、それはバスケットの本質にかかわる重要なものであることが殆どです。
練習メニューが変わっても、動き方の本質を以前に学んでいるからスッと練習に馴染んでいける…。実に合理的だと思いませんか?
是非参考にして頂けたら嬉しいです!