本記事では日本では指導者が確りと教えてくれない「ファールの使い方」について紹介します。
「ファウルはしてはいけないこと」、「ファールをすることは汚いこと」と考えられがちですが、バスケットボールのルール上、個人は4回までファウルをしてもいい、つまり効果的に「使う」ことが出来るのです。そして、何より衝撃的だったことはヨーロッパではファウルをどのような状況で「使う」かのタイミングについても確りと指導をしていたことです。
さあ、それでは以下の順にしたがってゲームを巧みに運ぶ為のバスケIQを高めていきましょう!
1.絶対にファールをしてはいけない状況
ファールをするかしないか、ということに限らず、何か判断を含むことを行う場合に、まず初めに頭に入れておかなければならないことは、「絶対にしてはいけないこと」を押さえておくことです。これを本題に当てはめると、ファールをすることによってデメリットしかないような状況を指します。
(ファールによって得られる)メリット < (ファールによって得られる)デメリット
してはいけないファール
テクニカルファール(含むアンスポーツマンライクファールなど)をすること
このファールを行うと、相手にフリースローを与えると同時に、相手ボールからのスローインとなってしまいます。つまり、点数を与える機会と自チームのファールカウントを増加させるという二重の悪い結果を導きます。
特に気を付けなければならないのは、次の項目で説明をする「ファールをすべき状況」と混同して、アンスポーツマンライクファールを取られてしまうケースです。良くある状況は、相手チームの速攻を止める為に無理な態勢(オフェンスの後ろや横)からファールをしてしまうことです。試合終盤にファールゲームを狙って、相手ボールマンに抱き付くファール(ホールディング)を故意に行うことがありますが、審判によってはこれもテクニカルファールの一種とみなす場合があるので、注意しましょう。
デメリットしかありませんが、白熱したゲーム展開では、審判に文句を言ってしまったり、勝つ目的を果たす為の故意且つ怪我を招くような悪質なファールをしてしまうことがあるので注意しましょう。指導者は自身がお手本となると同時に、選手がそのようなプレーを行わないように、日頃から徹底しておくことが必要です。選手は指導者の鏡です。
オフェンスファールをすること
オフェンスファールをすると、攻撃権を失い、相手ボールのスローインとなってしまいます。また、ファールの為、自チームのファールカウントまで増加させてしまいます。メリットは一つもありません。
アグレッシブにプレーをした結果として、オフェンスファールになってしまうことは仕方ない、とも言えますが、オフェンスファールをすること自体は決して良いことではありません。このファールに関しては「この時は良くて、この時はダメだ」という指導では思い切りの良さもなくなってしまう為、どちらの立場を取るかについては一貫した指導が必要と考えます。
状況一覧
自チームのファールカウントが4つの場合 (ディフェンスでファールをすること)
以下のファールをすべき状況に当てはまるかどうかでこのファールも善し悪しが分かれますが、基本的にはファールは避けるべき状況であることには変わりありません。別記事でも触れましたが、フリースローは得点期待値が一番高い攻撃となります。その上、時間が止まった状況で得点をすることのできる唯一の方法でもあります。
一番悲しいのは、24秒ショットクロックが残り5秒を切った辺りでファールをしてしまった場合です。バスケットボール経験者は分かると思いますが、体育館全体から「あぁぁー」というため息が漏れてきます。これは自チームのベンチも実は同じです(笑)
2.ファールをすべき状況
次に、ファールをした方がチームに良い影響を与える場合があります。つまり言い換えると、ファールをすることによって得られるメリットの方が、ファールをすることによるデメリットを上回る場合、となります。
(ファールによって得られる)メリット > (ファールによって得られる)デメリット
上記のような状況で意図的にファールを行うことを「ファールを使う」という表現を用いることがあります。
では、具体的に一体どのような状況でファールを「使う」ことが効果的なのでしょうか?
状況一覧
ゴール下、もしくはローポスト付近でオフェンスにボールを持たれ、ゴール下のシュートがほぼ確実に成功すると見込まれる場合(主にミスマッチが起きている場合)。
ただし、シュートモーションに入る前にファールを行うことが前提となります。
NBA好きな方はご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、「ハック・ア・シャック」という戦略が一時NBAを席巻しました。これは、216センチ140キロの巨漢でNBAのゴール下を支配していた、シャキール・オニールという選手を止めるための苦肉の策として登場しました。「ゴール下でボールを持たれたら、とにかくファールをしろ」という作戦です。これは、この選手がフリースローを決めることが極めて不得意だった為です(FT成功率60%未満。FG成功率は60%強)。
ファールカウントを増加させるという代償を払ってでも、ゴール下で確実に2点を取られるよりもまし、という判断がそこにあった為です。これもチームとして共通認識の上、行われていました。
また、バスケの神様と呼ばれるマイケル・ジョーダンに対しても同様のことが行われたことがありました。あの有名なバスケ漫画『SLAMDUNK』の主人公である桜木花道のモデルとなった悪童デニス・ロッドマンがデトロイト・ピストンズに在籍していた際にNBAプレーオフでジョーダンを潰す為に取られた作戦です。ジョーダンがボールを持ったら得点を決める前にあからさまなファールで攻撃を封じるという作戦です。ジョーダンはゴール下に張り付いて得点を取るスタイルでは無かった為、コートのどの場所でも、得点を取られる前にファールをしてでも止める、というチームの共通認識がそこにはありました。
相手が速攻を仕掛けてきている状況且つ、自分が相手に正対している場合
速攻の状況においての攻撃成功率はセットオフェンスに比べて高いです。それは、ゴールまでレイアップを仕掛けられる状況が多く創り出せる為であり、オフェンスとしては最低でもファールを貰うことを狙ってきているからです。
したがって、守るディフェンス側は、フリースローを与えずにレイアップをさせなければ勝ち、と言って問題ないと思います。1人で守り切ることが理想ではありますが、そうそう簡単に守ることはできません。ここでファールをする場合は、ドリブルでの1ON1で、自分が相手よりゴール側にいることが前提になります。そしてドライブの1歩目までにファールをしましょう。2ON1の状況でもできなくはないですが、ファールをしに行ったタイミングでパスを出されてしまうと、簡単なレイアップを許してしまう結果となります。選手としては、おそらく、そのときの監督の顔を見ることは出来ないでしょう…。
この状況で一番気を付けるべき点は、中途半端にファールを仕掛けた結果、タイミングが遅れ相手にバスケットカウント・ワンスローを与えてしまうことです。これは3点目を得点するチャンスを相手に与えてしまう結果となり、最悪の形です。
ファールを狙うと決めたらオフェンスがシュートステップに入る前にファールをし、相手ボールのスローインにすることで味方が戻ってくる時間を創り出すことが出来ます。
試合終盤でファールゲームを仕掛ける必要がある場合
自チームが第4ピリオドのゲーム終盤で負けている状況では、とにかくボールを持っている時間を長くし、攻撃回数を増やすことが必要になります。残り時間と得点差にもよりますが、早く時計を止める必要があります。逆に勝っているチームは残り時間をいっぱいに使って攻撃を終えたいと考える為です。
その為、負けている場合はチームファール5つ以降のフリースローを戦略的に使って、早く自ボールとし、攻撃回数を増やす必要があります。その際には躊躇せず、時間を使わないように速やかに、スムーズに、スマートに(笑)ファールをして時間を止めましょう。
気を付けなければならないのは、スローイン時にファールをしてしまうとテクニカルファールになってしまう点です。絶対にしてはいけないファールなので試合終盤は特に気を付けましょう!
3.状況に応じてファールをするか否か判断する必要がある場合
最後に、ファールをするか否か、その時のゲーム状況に応じて即座に判断しなければならない状況について紹介します。これらに当てはまる場合は緊迫した試合の終盤(第4ピリオドのラスト5分)を切った辺りから考え始めなければなりません。
ただ、そのような状況下では冷静さを欠くことが多々あります。世界最高峰リーグのNBAでも、稀ではありますがミスをするケースがあるほどです。
その為、ベンチメンバー含み全ての選手と指導者が、同じ判断軸を持てるように気を配っておくことが必要になります。
(ファールによって得られる)メリット ≒ (ファールによって得られる)デメリット
ターンオーバー後にファールを行うこと
これは自チームがターンオーバーをしてしまった直後のポゼッションで速攻を防ぐ為のファールを指します。ターンオーバーをしてしまった場合、相手チームが速攻を仕掛けてくるケースが多いです。その為、セーフティの位置にいる選手は以下の点を瞬時に判断してファールを仕掛けるかどうかを決めます。
①アンスポーツマンライクファールにならないか(やってはいけないファール)
②ファールをしてフリースローとなるかならないか(チームファールカウントの確認)
③残り時間と得点差はどのくらいか(特に第4ピリオドのゲーム終盤で勝っている場合)
④2人目に戻ってくる味方の状況(失点せずに守り切れるかどうかの確認)
ゲームの状況に応じて、ファールをするかしないか変わってきます。特に③のゲーム終盤の場合は判断がとても難しくなります。タイムアウトの数まで把握していれば思い切った判断ができると思いますが、それはなかなか難しいレベルです。
4.まとめ
如何でしたでしょうか?
以下に今回の記事でお話しした点を簡潔にまとめましたので、最後に確認をしておきましょう!
ファールをすることによるメリットとデメリットを比較する思考習慣を身に付けましょう。
メリットが大きい場合にはファールを使うことで、相手の攻撃のリズムを崩すことができる可能性があります。
デメリットが大きい場合にファールをしてしまうと、自チームにとって流れが悪い方に傾く恐れがあるので避けるべきです。
何よりも大切なことは、チーム内でどのような状況でファールをする・しないという判断基準について、練習の段階から確認をしておくことです。
そして、試合の終盤ほど、チームとしての狙いを全員が共有する必要があります。たった1つのファールがゲームの勝敗を左右することもあるので、疎かにしないように準備していきましょう!