バスケットボール男子日本代表は…?
本記事では、2019年に行われた中国バスケットボールワールドカップ(W杯)での男子バスケ日本代表の成績を受け、感じたことや考えたことを書き連ねています。
本大会では、私自身が半年間コーチング留学に行っていたスペイン(FIBAランキング2位)が見事優勝を勝ち取ったことはとても素晴らしいことではありましたが、男子日本代表にとっては苦杯を嘗める結果となってしまった大会でした。
日本代表の成績
W杯出場を決める戦いから、日本代表の成績を見ていきましょう。
※FIBAランキングはW杯前時点のもの(日本は48位)
W杯予選
グループF 第2位(8勝4敗)
ー1次予選ー
日本 71-77 フィリピン(同30位)
日本 58-82 オーストラリア(同10位)
日本 69-70 チャイニーズ・タイペイ(同55位)
日本 84-89 フィリピン
日本 79-78 オーストラリア
日本 108-68 チャイニーズ・タイペイ
ー2次予選ー
日本 85-70 カザフスタン(同68位)
日本 70-56 イラン(同27位)
日本 85-47 カタール(同60位)
日本 86-70 カザフスタン
日本 97-89 イラン
日本 96-48 カタール
エキシビションマッチ(バスケットボール日本代表国際試合 International Basketball Games 2019)
(2勝3敗)
日本 99-89 ニュージーランド(同38位)
日本 87ー107 ニュージーランド
日本 93-108 アルゼンチン(同5位)
日本 86-83 ドイツ(同22位)
日本 76-78 チュニジア(同51位)
W杯本戦
出場32チーム中31位(0勝5敗)
ーグループEー
日本 67-86 トルコ(同17位)
日本 76-89 チェコ(同24位)
日本 45ー98 アメリカ(同1位)
ー17〜32位決定戦ー
日本 81-111 ニュージーランド(同38位)
日本 65-80 モンテネグロ(同28位)
これだけ見ると日本はアジアではかなり強いと見受けられます。手が届かないと考えられていた欧米諸国に一矢報いるチャンスがあるのでは、世界も視野に目指していけるのではと、誰もが「希望」を抱いたことでしょう。
実際、八村選手が日本代表に参加してから、アジアでは負けなしの8連勝を成し遂げており、結果も十分でした。 それを受けて、欧米各国との親善試合を組むのは必然と言えたでしょう。W杯の予選リーグが欧米国しかいないことを受け、チームプレースタイルがアジアとは異なる欧米各国のバスケを体感するために、まさにW杯で成績を残すために組まれた国際試合だったと言えます。そこでも日本はW杯準優勝国であるアルゼンチンには15点差の熱戦、ましてや欧州の強豪国ドイツには僅差のゲーム展開で勝ち切る快挙を成し遂げます。
最高の形でW杯を迎えた日本と言えますが、いくつかの不安要素が確かにありました。しかし、それを補えるのではないかと少なからず期待していたのは確かです。
W杯本戦前の国際試合で感じた不安要素
①そもそも相手国は全力ではない
対戦した相手国、特にアルゼンチンとドイツに関しては、かなりリラックスした様子でプレーを進めていました。また、普段は使わないようなベンチメンバーも組み込みながらプレイタイムを考えながら、試合を進めていました。 特にアルゼンチンのゲームは15点差と検討したように見えますが、実際のゲームを見てみると、全く勝てる要素が見つからないまま4クォーターを終えてしまったように感じられます。
私がみてきたスペインのバスケットボールとアルゼンチンのそのプレースタイルはとてもよく似ていて、アルゼンチンの方がより外角に強みがあると言えます。その得意である外角のシュートを気持ちよく沈められた他、2−3ゾーンディフェンスもいとも簡単に破られてしまうなど、為す術が無かったように感じられ、結果、108点もの得点を奪われてしまったと言えます。
一方、ドイツ戦は気の緩みを確りと突くことが出来たため、接戦を演じることが出来た上、勝ち切ることが出来たのだと思います。その試合ではガードの篠山選手(同時点 川崎ブレイブサンダース所属)が粘り強いディフェンスから、堅実にゲームを組み立てることが出来ていました。
「調整」をメインに考えてくる相手国に対して、日本は欧州各国と試合を出来る機会がそうそう無いこともあり、力試し感が強く、真っ向勝負を挑んでいたと考えます。それ自体は全く悪いことではありませんが、それだけの地力の差があるということも意味しています。
また、欧州各国にしてみれば、NBAでプレーしていた渡邉選手(2019年9月時点 メンフィスグリズリーズ所属)や八村選手(同時点 ワシントンウィザーズ所属)以外の日本選手のデータはほぼ皆無であったことでしょう。そのため、スカウティングの要素が強かったのではないかと感じます。
実際、日本が得意とする展開をシャットアウトするような仕掛けを見せることはなく、やりたいようにやらせる、つまり横綱相撲のような戦い方でじっくりと観察されていたと考えます。
それが本戦での徹底したスカウティングを行なってきたチェコ・トルコ・アメリカにつながります。格下の日本は常にフルで戦わなければならないため、持てる力は全てW杯前に出し切ってしまっていたのです。彼らは格下相手でも、綿密なゲームプランを用意し、日本のゲームプランを崩壊させようという目論見が見えました。
②代表経験のあるポイントガード不足
本戦前に本来スターティングメンバーであった富樫選手(同時点 千葉ジェッツ所属)が手首を負傷し、本職がポイントガードの選手が篠山選手のみになってしまいました。それまでは、ディフェンススタイルで限られた時間で流れを変える役割を担っていた同選手がチームを牽引しなければならなくなり、それは相当な負担増加を意味します。
今まではオフェンスを牽引する富樫選手、ディフェンスで流れを変える篠山選手、大型ガードの比江島選手(同時点 栃木ブレックス所属)で回していたのですが、そのプランがまず崩壊します。
そこで白羽の矢が立ったのが田中選手(同時点 アルバルク東京所属)ですが、大学までポイントガードをした経験はありません。それは比江島選手も然りです。そのため、残り1枠のガードポジションを争って、ベンドラメ選手(同時点 サンロッカーズ渋谷所属)と安藤誓選手(同時点 アルバルク東京所属)が熾烈なメンバー争いを繰り広げる訳ですが、共通して言えることは、「誰一人として、ポイントガードとしてA代表での試合経験が無い」という点です。これが後々に日本の大きなウィークポイントとなってしまいます。
③得点を取れる選手が限られている=オフェンスのバリエーションの少なさ
日本のスタイルとして、オフェンスのパターンは得点力を要しているインサイドプレイヤーの3人にボールを持たせることが必要になっていました。それは渡邊選手、八村選手、ファジーカス選手(同時点 川崎ブレイブサンダース所属)に他なりません。ほぼ毎試合その3人で50〜60点近くを獲得しているはずです。
八村選手はショートコーナー付近を主戦場に、苦しい時にはペリメーターまで上がって1対1を仕掛ける場面が多く、渡邊選手はペリメーターからのドライブ〜ロール若しくはフローター、ポップして外角のシュートがメインの攻撃方法でした。ファジーカス選手はリバウンドショットか外角のシュートで点数を重ねていました。
つまり、W杯が始まる前の時点でアウトサイド陣の得点、特に3Pシュートでの得点が少ないことはチームの特徴としても挙げられていました。シューターよりも、アスレチック能力が高く、上背のある選手を招集した選考スタイルからもそれは分かり得る特徴でした。
まとめると、きっちりとディフェンスで守ってからブレイクを狙いつつ、ハーフコート主体のオフェンスを中心に得点を奪っていくというスタイルだったと考えられます。
各国のプレースタイル
それでは簡単ではありますが、欧州のスタイルとアメリカのスタイルを紹介しながら、日本のバスケットの戦い方について解説したいと思います。
欧州各国のスタイル
- 確実にワイドオープンのシュートを打てるチャンスが来るまで、24秒かけてじっくり攻撃をする、1回の攻撃で2〜3回のキックアウトパスを繰り返すことが多い
- サイズに関わらず、すべての選手が同じようなプレーをすることができる
- 4アウト1インのスペーシング(ポジショニング)オフェンスが基本でパスを多用する傾向にある
- オールコートでのタイトなマンツーマンディフェンスが基本
欧州の中でも平均身長が低いスペインのバスケットスタイルについて、より詳しく紹介している記事がございますので、気になった方は是非以下の記事もご覧ください!
【スペイン バスケ】 プレースタイルの特徴や練習のポイントについて徹底解説!アメリカのスタイル
- 圧倒的な身体能力とスキルを生かしたオールコートのバスケット
- オフェンスもディフェンスも個人での1対1が基本
- トランジションバスケが主体
「一人一人が目の前の相手をやっつければ勝てる」を体現したようなバスケットボールです。各人が責任を持って得点を取り、相手を抑える。それが出来るのであれば、シンプル且つ最強のバスケではありますが、近年の欧州勢の台頭にそのパワーだけの戦略では通用しなくなってきています。
2004年には準決勝でアルゼンチンに敗退を喫していますし、2008、2012年のオリンピック決勝では2大会共に決勝でスペインと対決しましたが、第4クォーターでアメリカが取った作戦は「アイソレーション」でした。絶対優位に立つ最強の選手で得点を取る。そんなスタイルです。
また、近年はNBAでスモールボールと呼ばれるスタイルが流行っていることもあり、アスレチック能力の高い選手がオールコートのトランジションで得点を奪っていくスタイルが取り入れられつつあります。
アメリカVSアルゼンチン 2004アテネ五輪準決勝
日本代表のスタイル
- オフェンスはセットプレーが中心、そこでのドライブは比江島選手・渡邊選手
- インサイドプレイヤーのポストアップが起点となる
- 篠山選手・馬場選手のディフェンスからトランジションでの得点
前述しましたが、基本的に八村選手若しくはファジーカス選手のポストアップを起点にボールムーブがスタートします。TOPからアウトサイド陣がドライブを仕掛けてキックアウトパスから外角のショットを打つケースは稀でした。
ドライブを仕掛けた場合はロールやフローターを用いたショットを打つことが多く、アウトレットからのワイドオープンなシュートを放つことは戦術的に少なかったのかなと考えます。
印象的だったのは、トランジションバスケを仕掛けられる局面が篠山選手と馬場選手のハードなディフェンスによるスティールの場面でしか見られなかったことです。これはファジーカス選手の走力に不安があることや、八村選手の攻守の負担を考慮しての戦術だったのでは無いかと考えられます。しかし、ファストブレイクでの得点が伸び悩むと日本は得点が伸びていかないこともまた事実なのです。
以上のスタイルを考慮した上で、日本がこれから目指していくべきスタイルをご紹介したいと思います。
日本が目指すべきスタイル
端的に言うと、現在の女子日本代表のようなスタイルを確立させていくべきだと考えます。
- タイトかつ運動量の多いオールコートのディフェンスからファストブレイクの回数を多くすること
- リングへの直線的なアタックを増やし、フリースローを得ること、そして確実に沈めること
- ガードのドライブでディフェンスを収縮させ、キックアウトからのワイドオープンの3Pシュートをオフェンスのバリエーションに加えること
体格と能力の差が女子以上に大きい男子では、より正確なプレーが求められると考えます。さらに、ハーフコートで対峙してしまうと現時点で1対1でフィジカル能力に優る欧米人選手をぶち破っていくことは至難の業です。もちろん将来を見越して、個人の1対1スキルを磨くことや、大きな選手に外角の担ってもらうことは重要であるのですが、それは育成年代から取り組まなければならない課題であり、ここでは割愛します。
トルコ戦では八村選手に対してのヘルプディフェンスが徹底されており、苦しいプルアップジャンパーを強いられていましたし、アメリカ戦ではそもそもボールを持たせないと言うディフェンスを敷かれました。更にはファストブレイクの起点でディフェンスの要である篠山選手に対して、オフェンス時にプレッシャーを与え続けることで疲弊させ、唯一の活路であった八村選手へのパス供給の根本を封じ、加えて激しいディフェンスまでも摘み取り、ファストブレイクを封じ込めました。
そこで前述の不安要素が絡んできます。生粋のガードがいないので、オフェンスが上手く回らなくなってしまいました。特にファストブレイクは全く出なくなり、馬場選手の単独スチールからの強行突破でなんとか点数をもぎ取っていくと言う場面が多くなってしまったのです。
シューター不足も言われていましたが、日本代表としては、まずディフェンスができるアスレチック能力の高い選手を優先的に選考する意図が感じられました。インサイドで高さを優先して選んでいるため、ヘルプが遅くなってしまい、そうであれば、アウトサイドプレイヤーの頑張りでそれを補完する他ありません。その上で、チームとしての大型化を狙う必要があります。その点を考慮すると、今回のメンバー選考は妥当であったと思います。シューターを呼ぶのであれば、チームを根本から変えなければならなくなってしまうからでしょう。
また、そもそも論ですが、コンタクトの多い状況下で自らボールを受けるために動き回り、シュートチャンスをクリエイトできるシューターでなければ現時点の課題は解決できません。それはガードからのアウトレットパスでワイドオープンの状況を作り出せていないからです。そういった個の能力が突出していない以上、シューターを呼ぶのは難しいでしょう。
※女子日本代表の試合の解説記事は以下です!ご参考までに。
まとめ
あくまでも、前述のスタイルには私見が十二分に含まれています。しかし、今大会で優勝したスペインの選手達はヨーロッパの中では決して体格に恵まれている訳ではありません。それでも、ほぼ全カテゴリにおいて、欧州選手権では上位に位置し、世界選手権等でもベスト4に入ってくるほどの実力を備えています。明確なプレースタイルが国として存在し、一気通貫した代表選考・強化が協会主導で行われている結果だと考えられます。
私個人としては、とにかく、JAPANとしてのプレースタイルを一気通貫させて欲しいと考えます。カテゴリが変わると、バスケットのスタイルそもそもが変わるということは他の国を見てもまず考えられません。日本としての特徴を残しつつ、他国を模倣していくことが重要だと考えます。
平面でハードにプレーすること、外角のシュートを沈めていくこと、そのチャンスをより多くすること。練習でノーマークの状態であれば決めることができていると感じますが、ハードなコンタクトがある中で、体力を削られてしまうと、ワイドオープンでも感覚が違ってしまうことが今大会で印象的でした。また、そもそもワイドオープンの状況をチームとして作り出すことも厳しいと言うのが現状です。
来年の東京五輪までにきっと変わってくれると信じていますが、こうした視点を持ちながら観戦して頂くと、より一層楽しめるのではないかと思います。また、現在プレイヤーの方に向けては、前述したスキルが求められるときがいつか必ずくると考えています。是非頭に入れて、練習して身に付けていって欲しいなと思います!