SEGLE21 スペイン名門女子バスケクラブの練習メニュー 1日分 U-18
本記事では私が実際に見てきたスペインの女子バスケットボールクラブの練習メニューの1日分を切り取ってご紹介したいと思います。
以前の記事でもご紹介した通り、日々練習メニューが異なります。そして、1日の中で段階を踏みながら、一つのテーマを習得させるように合理的に練習が行われています。
今回は実際の練習がどのように行われているのか、具体的にどんな練習メニューをしているのか、その注意点はどこにあるのかなど、私が日本で受けてきた指導との比較も取り入れながら解説していきます。良い点があれば、是非とも皆さんのチームにも取り入れて頂ければ嬉しいです!
2018年10月2日のU-18(Junior)の練習
人数は7人と極めて少数。この日は3X3 の世界大会があり、選手を派遣してしまった為、人数が少なかったとのこと。
U-16と同様みんなでアップなどは無く、一定人数が集まったら練習がスタートします。
日本で良く見られる円陣などは練習開始前にはなく、コーチの一声から選手たちは一気に集中した状態にメンタルを持っていくことができます。
スペインの練習はさぞかし複雑で、大変で、覚えることも色々あって難しいんだろうな…そう思っていませんか?私もそう思っていました。しかし実際は全く違ったのです。勿論、細かな制限をかけたりする練習もあります。ただ殆どはそうではありません。
以下に挙げているのが、本日の練習で身に付けてほしいポイントです。
1日の狙い
オフェンス
- ゴールへの力強いアタックでズレを生み出し、そのズレから攻撃を展開していくこと
- コートをよく見てズレのある状況を正確に把握し、そのズレを最大限に生かせるスペースでのオフェンスを判断できること
ディフェンス
- オンボールでのディフェンス時に、縦へのドライブを一発でされないために、膨らませるようにすること
- ヘッジ、ヘルプなど、チームで上記のドライブに対応する動き方を身に付けること
本日の練習での狙いは上記のポイントのみです。極めてシンプルな物ばかりですよね。
また、このカテゴリはスペインのプロ2部リーグに属している為、非常に高度な戦術理解を必要とします。選手の育成をしつつ、プロリーグでの勝利もつかみ取る為に、限られた2時間という練習時間の中で、一体どのように上記のポイントだけを徹底して身に付けさせているのでしょうか…?
さぁ見ていきましょう!
練習メニュー
①ドリブル鬼ごっこ(片手バージョン) コーディネーション
練習の目的
ドリブルをした時にルックアップをして、常にボール(テニスボール)の位置、ディフェンスの位置、オフェンスの位置の3つを正確に把握しながら、ハンドリングをできるようにするため
このコーディネーションでは下を見ながらドリブルする余裕は無く、常に周りを確認する必要があります。ルックアップが出来ない場合、それを遊び感覚で養うことができます。
必要な道具
- バスケットボール人数分
- テニスボール1つ、ピンポン玉1つ(目に見えて投げてもふわふわしない重さのものであればさらに小さくすると難易度を上げることが出来ます)
練習内容の説明
3Pライン内で行います。制限時間は1分間。(勿論場合によって時間を延ばしても良いです、一度試してみて、負荷のかかり具合で決めていきましょう)
- Part1
鬼を2人決めます。
全ての選手にバスケットボールを1つずつ持たせ、鬼以外のチームに1つテニスボールを持たせます。
全員ドリブルをしながら、鬼はテニスボールを持っている状態の人にタッチしたら勝ちです。テニスボールを持っているチームはパスを繋げたり、身体でボールを隠したりして、制限時間を逃げ切ります。
利き手と逆の手で、それぞれ鬼と逃げる立場を行ったら難易度を上げましょう。
4回のうち、負けた回数が多いチームに罰ゲームを課します。
引き分けだった場合は両チームに罰ゲームを課します。
- Part2 難易度を上げる
テニスボールをピンポン玉やサイコロなど、更に小さなもので手に隠して持つことができるものであれば難易度が上がります。
ココがPOINT!
鬼(ディフェンス)の状況だけを把握し、自分の逃げるコースを探せばよかったのですが、Part2ではディフェンスにとっては誰がボールを持っているのか良く観察する必要が増します。また、オフェンスにとっては、より小さいものをコントロールしなければならないため、ハンドリング強度が向上します。
②ハーフコート3ON2(速攻イメージ)
練習の目的
横並びの3線速攻の状況から縦への動きを入れることでディフェンスを動かし、ペイントエリア付近での2ON1の状況を創り出すため
必要な道具
- ボール1つ
練習内容の説明
- ハーフコートで行います。TOP1人と各ウィング2人からスタートします。
- まずTOPからどちらかのウィングにパスを出します。
- その後、パスを受けていない逆サイドの選手がボールサイドのショートコーナー(上図の黄色の網掛け部分)を目がけてゴールカットをします。
- その状況から攻撃をスタートします。アウトナンバーの練習であり、ゆっくり攻める練習ではないため、長くても5秒以内でシュートに持っていきましょう。
アイデア例
- ゴールカットに対してディフェンスがバンプしてきた場合には、そのままスクリーナーとなり、TOPの選手がボールとは逆サイドのゴール下に走り込みレイアップを狙いましょう。
- ボールを受けたウィングの選手はカットしてきた後、ディフェンスが中途半端で目の前が空いていたのであれば自らのシュートを積極的に狙いましょう。その際にはヘジテーションドリブルで間合いを測りながらディフェンスとの駆け引きをしましょう。
- TOPの選手が再度リターンパスを受けた場合は、ペイントエリアに入るまでに自らのシュートか引き付けてパスなのかを決断しましょう。
ココがPOINT!
TOPからウィングにボールを落した際に、流れのまま何も考えずにゴールカットをしてしまうのではなく、止まる(実際の速攻では減速する)ことで、逆サイドの選手がカットをするスペースを確保することがポイントです。
この練習ではTOPの選手が奥のディフェンス(図ではディフェンス1番)の対応を見て、次のプレーを選択することがポイントです。
③ボールが止まった状態から1ON1(TOP・コーナー)
練習の目的
ボールが止まった状況からズレを創り出し、ゴールを奪えるスキルを身に付けるため
必要な道具
- ボール1つ(2人1組)
練習内容の説明
1アームの状況からディフェンスがオフェンスにボールを渡して1ON1を行います。
ココがPOINT!
1アームでプレッシャーをかけられている状況から、個人のスキルによってズレを創り出し、ゴールに対して直線的にアタックを狙いつつ、良いシュートセレクション行うこと
ゴールが外れた場合はオフェンスリバウンドに必ず絡み、得点を取り切る意識づけをさせること
④クローズアウトから1ON1(TOP・コーナー)
練習の目的
既にズレが出来た状態から適切な判断を行い、ゴールに対して直線的且つアグレッシブなアタック(ドライブ)を身に付けさせるため
必要な道具
- ボール1つ(2人1組)
練習内容の説明
ディフェンスからオフェンスに向けて、ペイントエリア内から軽くボールをトスして、クローズアウトの状態から1ON1を行います。
ココがPOINT!
既にできているズレが前後左右どこにあるのかを瞬時に把握し、ゴールに対して直線的にアタックする為の動きを考えること
ゴールが外れた場合はオフェンスリバウンドに必ず絡み、得点を取り切る意識づけをさせること
⑤ハーフコート3ON4
練習の目的
- オフェンス
- 縦への突破により、自らズレを創り出すため
- ゴール下にいるヘルプの状況とヘッジの対応を見ながらプレーをするため
- ディフェンス
- ヘッジディフェンスの動き方、仕掛ける間合いを習得するため
必要な道具
- ボール1つ
練習内容の説明
- TOPがボールを持ってスタート
- オフェンスはまず縦にドライブしないとズレを創り出せないため、1ON1で突破することを目指します。難しい場合はハンドオフなどを使いましょう。
- 2線のディフェンス(オレンジ丸で囲われている選手、つまりディフェンス2番と3番)はディナイではなく、ヘッジにすることで縦へのドライブをケアします。
- その際に、上の図中の黒いライン(3Pライン上)までを目安にヘッジを出るようにします。また、一番下のヘルプディフェンスは黒いライン(ローポスト)を目安に抜いて来たオフェンスを捉えるようにします。
- つまり、ボールマンのディフェンスはそれらのラインよりも内側を抜かれてしまわないように膨らませるようなドライブをさせることが大切です。
ココがPOINT!
特にTOPからのペイントエリアへの縦ドライブをされてしまうとディフェンスが機能しなくなってしまうので、1発のドライブで突破されないことを重点に置いて練習します。
⑥リバウンド後の速攻をイメージしたパス練習
練習の目的
ファストブレイクに繋げる為のボールの受け方、ファーストパスの出し方を習得するため
必要な道具
- ボール2つ(4人1組)
練習内容の説明
- フリースローライン上にボールを持った2人が、横並びで進行方向に対して後ろ向きに立ちます。
- 青1は2人のうちどちらか1人をタッチします。(ここでは赤1にタッチしたと仮定)
- 青1はタッチした側(赤1側)のサイドラインを走り、赤1は走っている青1のスピードを殺さないようにロングパス、そのままレイアップをします。
- タッチをされなかった青2はサイドラインから出てくる赤2にパスをします。パスを受けた赤2はドリブルでフロントコートにエントリーします。青2はパスした側のサイドラインを走ります。赤2は走り込んでくる青2のスピードを殺さないようにバウンズパスを出し、そのままレイアップをします。
- (2ON2)青1赤1はパスが通ったらボールを持ったままディフェンスとなり、青2赤2がオフェンスとなり2ON2の形を作ります。
ココがPOINT!
リバウンドから長いスポットパスによる速攻とガードに素早くつないで2人でセーフティをやっつける速攻の2パターンをイメージしながら行うこと。
走っている選手の前方に取れるか取れないかぎりぎりで“通す”感覚を養うこと
⑦ハーフコート3ON3(ローポストでのスクリーンの使い方)
練習の目的
ローポストでスクリーンを貰った場合の適切な使い方(ストレート・カール・フレア)を習得するため
必要な道具
- ボール1つ
練習内容の説明
- オフェンス1からオフェンス2にパスをします。
- ディフェンス1がバンプしてくるので、パスした逆側を抜けてゴールカットをします。
- ローポストにいるオフェンス3はカットして来たディフェンス1にスクリーンをかけます。オフェンス1はそのスクリーンをディフェンス1と3の状況を見たうえでストレートとカールカットとフレアカットの選択をしてボールを受けます。
- そのズレを利用して3ON3を優位に進めます。
ココがPOINT!
ディフェンスの状況を把握、判断することがこの練習の目的であり、全てです。
以下に判断のベースとして具体例を挙げておきます。
- オフェンス1はディフェンス1が後ろに着いてきている場合にはカールカットを使ってペイントエリアでボールを受けてそのままレイアップを狙います。
- しかし、カールカットに対してディフェンス3がバンプなどで対応してくると判断した場合はストレートでボールミートを狙い、トップ付近でボールを受けます。
- ディフェンスがスクリーンを読んで先回りした場合はコーナーに逃げるようにフレアカットを使います。
まとめ
如何でしたでしょうか?
個々の練習のテーマが一貫して「判断」というテーマを持っていることがお分かり頂けましたでしょうか…?
また、其々の練習が他の練習とリンクしていて、前の練習で身に付けた技術をより実践的なメニューで磨き上げていくというスタイルを貫いています。
このように日々の練習にテーマを持って、集中して身に付けていく、という練習方法がスペインのクラブチームの特徴ともいえます。翌日は全く異なるテーマ、例えばピック&ロールやゾーンオフェンスの為のスペーシングなどがありますが、そういったテーマを扱うこともあります。
惰性で練習していれば身に着いた…というようなものではありません。毎日新たなメニューに取り組むため、その場その場で確りと理解することが求められており、それはバスケットの本質にかかわる重要なものであることが殆どです。
練習メニューが変わっても、動き方の本質を以前に学んでいるからスッと練習に馴染んでいける…。実に合理的だと思いませんか?
是非参考にして頂けたらなと考えております!