2018 女子W杯 スペインVSオーストラリア
本記事では、2018年の秋にスペインにて実施された女子バスケワールドカップ準決勝「スペインvsオーストラリア」の解説を行っています。
スペインのバスケットスタイルを学んできましたので、どういった試合のどの場面でそう言ったプレーが出ているかを見ることが出来ます。
前回の日本戦とは違い、高さのある相手に対してどのように戦うのかという点について詳しく説明をしています!
それでは早速見ていきましょう!
試合動画
ポジション別身長一覧(身長とプレースタイルからポジションを推測してます)
スペイン
PG 165 172 173
SG 178 180
SF 180 187
PF 190 190 191 198
C 190
スタートの選手
4 7 9 15 45 ガード2枚、フォワード3枚
前回の日本戦と同じくガードを2枚スターティングメンバーに起用していますが、10番→15番に変えてきています。日本と違って、サイズのあるオーストラリアに対してはサイズのあるガードよりもスピードのあるガードを選んだということです。
オーストラリア
PG 172 178 178
SG 180 186
SF 188 188
PF 190 193 193
C 196 203
スタートの選手
6 8 9 10 15 ガード1枚、フォワード3枚、センター1枚
スペインに比べて体格で優位にあるため、インサイドを厚くして来ていると考えられます。
試合レビュー
1P
スペインのオフェンススタイルは4アウト1インです。オーストラリアのセンターを警戒して、外角起点でのオフェンスとなっています。反面、オーストラリアは絶対的エースの8番のCを使ってオーソドックスなハーフコートバスケットを展開しようとしています。
立ち上がりの攻防でスペインは、24秒ギリギリでスペインらしい判断の素晴らしいプレーを見せた直後に5秒もかからない速攻で2点を返される他、シンプルな2ON2からのピック&ロールに全く対応できないなど、ディフェンスのミスが目立ちます。
FTの後はで2-3ゾーンディフェンスを仕掛けるも思ったような効果を得られず、オーストラリアに3Pを決められてしまい、更にオフェンスでもターンオーバーを犯してしまったところでスペインはタイムアウトを請求します。
引き続きFTの後は2-3ゾーンとチェンジングディフェンスでかく乱する作戦を仕掛けますが、オーストラリア8番のCにペイントエリアを支配され、ここまでFGノーミス4本で9得点を許してしまいます。
残り4分の時点で6-18と大きくリードを許す最大の要因はFG%の悪さにあります。スペインが2/10の20%に対して、オーストラリアは7/11の64%。スペインはインサイドへのアタックが無く、ミドルシュートと3Pシュート一辺倒と外角からのシュートだけになってしまっていることが分かると思います。
ただ、速攻が1本出てリズムが変わります。その直後のオフェンスでは45番の最長身フォワードをポップアウトさせる形から3Pを成功させています。これで流れを掴み、その後は堅い守りから速攻を成功させ、7連続得点となったところでオーストラリアがタイムアウトをとります。
オーストラリアはリズムが悪い中フリースローでなんとか得点を繋ぎます。しかし、ディフェンスのスイッチが入ったスペインから点数を奪うことは簡単ではなく、ここから拮抗した展開になっていきます。
1Pは15-23とオーストラリアリードで終了します。
2P
このピリオドもオーストラリアは容赦なくインサイドを徹底的にアタックし、8番の1ON1からの得点でスタートします。対するスペインはカットプレーなどからズレを作って、外角からのドライブからレイアップ、もしくはキックアウトから3Pとリズムよく得点を重ねていきます。
オーストラリアは8番がオフェンスファールでベンチに退いてからスペインの激しいディフェンスの前に攻め手が無くなっていきます。結果、このピリオドでは残り5分を切った時点で7-4とスペインがリードする展開になっていきます。
気持ちよくオフェンスが出来ているスペインは完全にゲームの流れを掌握し、7番の連続3Pシュート成功により、遂に30-30の同点とします。たまらずオーストラリアはタイムアウトを請求します。
プレッシャーをどこで強めるかも頭を使ってプレーしています。ハーフライン付近では、オフェンスはバックパスにならないようにと考えます。一番嫌な場所で瞬間的にリスクを冒すことで、ミスの誘発を狙っています。
攻め手の無いオーストラリアは残り2分24秒、遂に8番のセンターをコートに戻します。ここまで僅か3得点のみと強固なスペインディフェンスの前にオフェンスは完全にシャットアウトされていました。
スペーシングバスケットをしているスペインはオフェンスのバリエーションがとても豊富です。4アウトと単純に言っても、2ガードポジションと両ウィングポジションに位置するパターンと、TOPと両ウィング、1コーナーに位置するパターンの2パターンを用いています。コーナーに位置するパターンではバックカットを狙うなど、オフェンスに狙いがあることが確り分かります。
また、それでも組み立てが上手くいかない場合には、典型的なホーンズセットからのピックやボールマンに対して時間差のスクリーンを2枚仕掛けるなどあらゆる方法で1つ目のズレを作ることを狙っています。1つでもずれたら、適格な判断力でゴールに繋げてられる自信が垣間見えます。
体格で劣るスペインがここまで5ブロック、対するオーストラリアは0ブロックとディフェンスにおいてはスペインの方が機能しています。高い位置からプレッシャーを仕掛け、頑張って寄せてきたところをインサイドの選手達がヘルプをして最終的な得点を摘んでいることがわかります
その結果、35-34とスペインが逆転して前半を折り返します。(2Pは20-11とスペインリード)
前半スタッツ分析
ここまでのスタッツを分析してみると、2PFG%が両チーム互角の9本成功。試投数もスペイン23本、オーストラリア24本と同程度です。FTはスペインが4本中2本、オーストラリアが11本中10本と、インサイドを中心に攻められていることを裏付ける結果となっています。
また、3Pに関しては、1Pでは成功率が悪かったが2Pだけで4本沈めたスペインが42%、対するオーストラリアは2Pで1本も沈めることが出来ず、22%と低く終わっています。
加えて、アシストもオーストラリアが8個に対し、スペインは13個と差があります。ゴールへのアタックからキックアウトのパターン、あるいは連動した動きからのゴール下への合わせのパターンからの得点が多い為、ボールを貰った状態でそのままノードリブルで得点出来ていることを意味しています。対するオーストラリアはインサイドへのドライブからゴール下の合わせ、あるいはキックアウトの3Pが多いという印象です。
リバウンドはスペインが20個(OR6、DR14)に対し、オーストラリア24個(OR7個、DR17個)と体格差が出てしまっています。しかし、ORを互角に奪っていることはそれだけ意識を強く持ってリバウンド争いをしていることの何よりの証拠です。
ただ、ファールは10個(オーストラリア5個)と多いです。ゴール下の徹底的なヘルプとボールマンプレッシャーを仕掛けるには、やはりそれだけのリスクが伴います。
3P
激しい守り合いからスタートします。
このピリオド、スペインはオフェンスのスタイルをゴールカット→スクリーンなどを使ってゴール付近から高い位置に上がってハンドオフしてもらう形を多用します。開始直後はそれが上手くハマらず、リズムを作ることができません。
対するオーストラリアは徹底したハイポストの起点づくりをからイージーなバスケットを狙ってきます。これを徹底しています。
オーストラリア8番の選手が盛大な?ブーイングの中でFTを沈めた後、そのシュートハンドをひらひらと振って自陣に戻っていきます。実はこれ、その前のシーンでマッチアップしているスペインの4番の選手がミドルを決めてから会場を煽る為にやっていたジェスチャーだったんです。
その姿を見た瞬間、会場のボルテージはMAXに。「ここはスペインだぞ!」とまるで一緒に戦っている仲間かのようにヤジを飛ばしまくります…。世界大会はこんな雰囲気でやらなければならないなんて、相当メンタルがタフでないとやってられませんね…。
スペインはディフェンスを激しく継続するもオーストラリアの8番の選手を止めることが出来ません。3Pにもかかわらず、残り4分の時点でファール4つの選手が3人と痛い状況に陥ります。
スペインは残り3分20秒、3Pシュート時にファールを受け、全て沈めて49-48と再逆転します。ここからスペインが動きます。2-3ゾーンディフェンスですが、下の真ん中の選手がハイポストまでケアするゾーンを敷くことでハイポストの起点を潰すとともに、ペイント内を厚く守ります。
流れを掴むために執拗に8にコンタクト、しびれを切らして手を使ったところを審判に見えやすく倒れる技術。これは吹かれても仕方ないです。
これにより、ゲームを支配していたオーストラリア8番の選手は一旦ベンチへ下がります。一気に流れがスペインに傾きます。
その次のオフェンスはスペーシングを上手く使い、文句なしのプルアップジャンパー。フロアバランス、ディフェンスの判断、決めきる力、どれもが一級品です。
この速攻も技ありです。一旦上に浮かせるパスでディフェンスの視線と腰を上げさせてから受けた選手は今度はバウンズパス。上下にディフェンスを揺さぶり、分かっていても対応が後手になってしまい、ほんの僅かなノーマークの瞬間を創り出しています。
このピリオドだけで、オーストラリアは6個のターンオーバーをしてしまいます。ファールは多いですが、それだけスペインのプレッシャーが徐々にボディブローのように効いてきている結果でしょう。
結局エースが下がってから得点源が無く、3分間で僅か2得点と急ブレーキがかかってしまい、オーストラリアはスペインの猛攻を止めきれないでずるずると離されてしまいます。
結果、58-50とスペインリードで最終ピリオドへ突入します。(3Pは23-16とスペインリード)
4P
オーストラリアは8番をコートに戻し、追い上げ態勢とするオーストラリアは開始1分30秒で0-7のRUNに成功します。これで1点差。更に加点し58-59と再逆転。この時点で8番は28点の大活躍。ポストに入ったら負けです。
3分間ノーゴールだったスペインは45番のこの日3本目となる3Pで再逆転。しかし直後のディフェンスで痛恨のファールアウト。抗議をしていますが、これは明らかにファールです。
その後も拮抗した状況が続き、華麗なスティールから3点差と突き放しますが、直後のオフェンスで8番をしつこく守っていた4番が痛恨のファールアウト+バスケットカウント。これで64-64とゲームは振出しに。
スペインのタイムアウト明け、インサイドが薄くなったスペインはドライブからの得点を試みますが、ことごとくブロックされ点差を離されていきます。
逆サイドの動きに注目です。TOPからハイポストから2ガードポジションにポップアウトした選手にボールを振ります。これにより、散々ブロックしていた8番の選手を釣りだします。
45°の選手はすぐにボールを要求し、8番から遠い位置でのドライブが出来るポイントを探します。
そして45°の選手がミドルドライブを選択した瞬間に逆サイドの選手とローポストの選手が同時にそのドライブを邪魔しないように同サイドに動き始めます。ディフェンスもその動きに釣られてヘルプポジションを移動します。
一瞬のスキを突いてドライブ成功。意図を汲み取った素晴らしいプレーでした。
その後、スティールするも、痛恨のターンオーバー。時間を使われた後、不運にもボールは8番の元へ。これを決められて5点差。
3Pシュートを決めなければならないスペインは外角のシュートに拘りますが、入らずタイムアップ。
66-72でオーストラリアが見事逆転勝利を飾りました。(4Pは8-22とオーストラリアがリード)
スタッツ分析
- FG%はスペイン34%、オーストラリア44%とオーストラリア優勢。
- 3FG%はスペイン35%、オーストラリア24%とスペインが優勢。
- FTに関しては、オーストラリアは26本もの機会を得て85%の高確率で沈めました。対するスペインは16本と果敢にゴールへアタックしましたが、70%を切る確率でその機会を存分に生かすことはできていません。
- 顕著な差が出たのはリバウンドです。スペイン34(OR12、DR22)に対してオーストラリアは53(OR15、DR38)。インサイドは支配されていたと言えますがORでこれだけ互角に張り合っていたのは称賛に値します。
- アシストはスペイン22本に対してオーストラリア19本とほぼ互角。両チームとも無駄なドリブルが無く、ゴールへのアタックからパスが良く出ていたと見受けられます。
- ブロックはスペイン7本、オーストラリア6本ですが、オーストラリアの6本は4Pのみでマークした数字です。勝負所で集中したディフェンスが出来ていた結果と言えるでしょう。
- ターンオーバーはスペイン11個に対して、オーストラリア18個、スティールは8個に対して5個とディフェンスのプレッシャーの激しさはスペインが圧倒していました。ただし、かなり激しいコンタクトを伴っており、それに応じてファール数もスペインは25個とオーストラリア15個を大幅に上回っています。
身長の小さいチームが大きな選手に勝つためには
- スペーシングバスケット
- ボールマンプレッシャーの質を高める
- オフェンスリバウンドに絡む
- 速く攻め切る
大きくスペースを取り、ブロックに来させない。確実にノーマークになるまで我慢して最善のオフェンスを組み立てる。そのような工夫が必要になります。
今回のようにインサイドに強力なセンターがいた場合、ディフェンスにとってはポストに入れられた時点でかなり危険です。ファール覚悟で激しいディフェンスに行っていることからも分かる通り、ボールの出しどころを潰す意識が必要です。また、入ってしまった場合はチームで守り切るという認識も大切でしょう。
オフェンスリバウンドに絡むことでリバウンドからの速攻を防ぐ効果があります。ただでさえ圧倒されるゴール下から一回のパスで得点されてしまっていては打つ手がありません。その為にオフェンスリバウンドに行くのです。リバウンドから既にディフェンスは始まっているという考え方でしょう。
大きな選手が来る前に攻め切る。これが最も重要な点です。このゲームにもありましたが、良い形を作っても最後の最後でブロックされてしまう、これは能力の差です。埋めようがありません。したがって、そのような状況に陥るまでになんとかする必要があります。オールコートの展開を速くし、ハーフコートでは徹底したスペーシングバスケット。これがスペインのスタイルです!
まとめ
以前記事として取り上げた「スペインバスケのスタイル」を少しでも理解して頂けましたでしょうか?日本戦とは全く異なるサイズのオーストラリアに対しても、ブレないスペインのスペーシングバスケットというスタイル。徹底したインサイドへのコンタクトとヘルプディフェンスの寄りの速さ、そもそもボールをポストに入れさせないようにするプレッシャーディフェンスの質の高さ…。
この試合に勝ったオーストラリアは決勝で最強アメリカに20点近く離されて敗北しています…。オーストラリアのように圧倒的なセンターがいたとしても話にならないレベルにあるアメリカを倒す為の秘策が、前述の激しいディフェンスとスペーシングによるノーマークを創り出すバスケット、速攻を潰し速攻を出す点にあると考えられます。
スペインバスケットから取り入れられる要素はまだまだ沢山あると思います。
是非何かの気づきとなれば嬉しいです!